totoを当てる日

サッカーくじtotoを当てて人生を変える話

広場恐怖症(1)

僕が奥歯にぽっかり穴が空いたまま何年も暮らしているのは歯医者さんに行きたくないから。行けないから。

歯科医に行けなくなったのはもう十二、三年も前のことだったと思う。「広場恐怖症」。後々調べたところによるとそう呼ばれる疾患が一番あてはまる。

 

始まりはサッカー観戦のためスタジアムに向かうシャトルバスだった。

 

臨時駐車場に家族で車を停め、バスでスタジアムまで連れて行ってもらえる。距離的に乗車時間は20分前後くらいだろうと思っていたが初めて乗るのではっきりは判らない。

乗る前からトイレに行きたかった。もっといえば家を出る時からトイレに行きたかった。妻と三人の子ども達を連れ、慌ただしく出かけて来たのだった。バスもすぐ出るというのでまた慌ただしく乗りこみ、ギュウギュウの満員バスでスタジアムに向かう。

日曜日の昼間、けっこう道が混んでるなぁという感じ。乗る前から頭に浮かんでいた不安感が徐々に膨らんでくる。「トイレ行きたいなあ。着くまで我慢できるかな?」身動きの取れない車内で考える。誰でも似たような経験はあるだろう。

子どもの頃から小、大を問わず便のお漏らしにはトラウマがある。何とか乗りきれたことももちろんあるが、やってしまったことも何度かある。

バスはなかなか動かない。「最悪、運転手さんにお願いして、自分だけ途中で降ろしてもらおうか?」そんな考えが頭に浮かぶ。あとどれくらいかかるのだろうか?子どもらを置いて父親だけバスを降りたらどうなんだろうか?何か違うことを考えよう!気を紛らわせたり、自分にいろいろ言い聞かせたりしながら耐えた。

本当に誰にでもあることだ。到着してバスを降りてしまえば全然トイレまでは我慢できる。しかし「自分の意思では出られない状況での不安感」を強く意識するようになり始めたのはこの時だったように思う。そしてこの「不安感」はだんだんと様々な場面で起こり、生活に不便を生じるようになっていった。(つづく)