totoを当てる日

サッカーくじtotoを当てて人生を変える話

「ちいさなかぶ」③

四月から学校の寮で暮らしている娘は週末には自宅に帰って来る。金曜の夜、仕事終わりで僕が片道30kmくらいの距離を迎えに行き、日曜の夜にまた送って行く。

可能ならば、購入したリトルカブでこの行ったり来たりを自分でできるようにしたいと考えている。また寮の立地的に、日常の買い物やバイトに行くにも何らかの足は必要そうだ。

 

 

二、三回乗っただけの僕が、初めて乗る娘にカブの乗り方を教える。

練習出来そうな場所まで僕がリトルカブに乗って行き、妻と娘は車でついてきた。

まずはエンジンを切ったカブの押し歩きと、スタンドの掛け方からだ。

 

リトルカブはバイクにしては車重が軽いので押し歩きは問題なかったが、センタースタンドを掛けるのに体重の軽い娘は苦労していた。「もう〜できないよ〜(> <)」と言いながら5分くらい頑張っていたら、力を入れる方向のコツを掴んだようで、それからは急にできるようになった。

 

続いてはエンジンをかけ、一速に入れて、「アクセルを開ける」、「戻す」、「ブレーキ」の練習をした。

それからシフトを順番に上げていく練習をした。そのへんは最初からわりと上手かった。

「ちいさなかぶ」② の記事に書いた僕の失敗を踏まえ、「降りてバイクを押す時にはエンジンを切ること」や、「信号待ちでうっかり、ニュートラルでエンジンの回転を上げた状態で慌ててギアを一速に入れないこと」などの注意点も伝える。

 

徐々にスピードを上げ、止まってUターン。スピードを上げ、止まってUターン。

何度も何度も繰り返し始めた。

楽しくなってきたみたいだ。スイスイ走り始める。

普通のスーパーカブよりもタイヤサイズの小さいリトルカブは、シート位置も低く足がつきやすい。重心も低いので転びそうな不安感は皆無である。

段差や、何かしら滑りやすい路面でない限り、転倒の危険性は少ないように思われる。開発時は高齢者向けに考案された、という話も聞いたことがある。

 

兄や姉にLINEで見せてやろうと思って妻が写真を撮ったら、娘はめちゃくちゃ笑顔で運転していた。

 

土曜日の夕方、一般の車両がほとんど来ない道路で、初めてのカブの練習をする娘と、道端に佇んでそれを見守る両親。

唯一その道路を使うであろう近隣施設の職員さん達が、みんな少し半笑いで会釈をして通って行く気がした。

ここで初めての原付の練習をする人、他にもいるんじゃないかな。最適だもん。

 

その日、帰り道は娘が家まで乗って帰った。僕よりもスムーズな感じだ。

 

 

日曜日、いつものように早朝覚醒気味の僕は、家族が寝ている間にそっとヘルメットを手に家を出る。

運動のために自転車で走る時の、湖を巡る30kmコースをリトルカブで走ってみようと思ったのだ。娘に練習で走らせてみようと思うコースの下見のつもりでもある。

 

カブのシフトチェンジにもだいぶ慣れてきた。リトルカブ、原付の制限速度に従って普通に走るには、快適そのものである。周りに車がいなければ。

 

交通量の少ない道や、二車線ある道は問題ない。一車線で追い越し禁止、路肩にスペースもない、そんな道ではやはり周りの車に気を使う。

こちらもなるべく抜かしやすいように振る舞っているし、譲れるスペースがあれば譲る。スマートにさっさと抜かして行ってくれればいいのだけれど、かなりスレスレを通って行ったり、車間を詰めてずっと真後ろを付いて来られたりするのはちょっと嫌である。

まあ原付ってそういう乗り物ではあるし、あまり気にしすぎても仕方ない。ちゃんと交通ルールに従って運転しているのだから。

 

娘にリトルカブを勧めた手前、好きになって乗ってもらいたいし、原付バイクに乗る時の注意点なんかも身を持って経験してフィードバックしてやりたいとも思うのだ。過保護かもしれないけれど。

 

過保護な僕たち両親は、娘の練習ツーリングに車で付いて走った。

娘はかなりスムーズに走って行く。僕の予想どおり、この子にバイクは向いていると思うのだ。ちゃんと慎重さもあるし。

 

娘の初めての二段階右折を目撃した妻が、隣でちょっと涙ぐんでいた時には少し引いた。「あ、ちゃんと右ウインカー出しながら左レーンを直進してるぅ。あ、ウインカー消して向きを変えてるぅ。」

テレビの「はじめてのおつかい」を観ている時と同じ涙だとは思うが、マジか?と思った。母親というものはよくわからないところがある。

リトルカブに乗って元気に走って行く娘の姿は、可愛らしさもあり、親の心の何かを刺激するのだろう。移動手段の変化による行動範囲、世界の広がりは、「大人になっていく」ことでもあると思う。

 

 

もうあとは勝手に乗って慣れてくれればいい。

二、三回練習に付き合って、そう思えるくらいになってきた。あとは原付でも走りやすそうなルートを見つけるとか、道を覚えるとか、そういう所だろう。

 

将来の仕事に向けて、「いろいろな種類の機械の扱いに慣れてほしい」、「地元の土地勘も身につけてほしい」、そんな想いもある。

どうか事故や怪我のないように、と切に願う。

そして、この小さなカブが彼女の夢の実現に向けて、何らかの役に立つ道具であれ、とも思う。