totoを当てる日

サッカーくじtotoを当てて人生を変える話

「ちいさなかぶ」②

契約から一週間。

リトルカブを取りに行く日になった。

 

それまでに娘と二人でバイク用品店にも行き、ヘルメットと手袋、ワイヤーロックなどを選んだ。

ヘルメットは基本、娘のサイズに合わせたが、男性にしてはあまり頭の大きくない僕も一緒に被れるサイズを探した。サイズもデザインもイメージに合った物が見つかった。

 

国道のバイパスを通らずに家まで帰れるルートも調べた。

 

そろそろ昼間は暑くなってきたが、二十年以上愛用している革ジャンを着て、革のワークブーツを履いて行った。家にある物でできる限りの備えをして行ったつもりだ。

YouTubeでカブの操作の予習もした。

自動車はここしばらくはずっとゴールド免許、クロスバイク(自転車)には乗っている。でもバイクに乗るのは何十年ぶり?

カブに乗るのは初めてだ。

乗れる気はするのだが、乗ったことはない。

 

 

 

 

支払いを済ませ、バイク屋のお兄さんの説明を受ける。

給油時の注意点など、疑問に思っていたことも訊いてみる。

 

少し練習できそうなとこありますか?と訊ねると、裏の道なら車が来ないのでやってみたらどうですか?と教えてくれた。

カブの操作方法をネットで調べている時に、初めて原付(スクーターかな?)を購入した女性のブログなんかも読んだ。

「あまりに乗れなかったので、見兼ねたバイク屋のお兄さんが一時間以上付きっきりで教えてくれました…」みたいな記事だったので、僕もバイク屋さんというものはある程度は初心者の練習に付き合ってくれるのかな?などと思っていた。

 

ガタン。

スタンドを外し、裏の道までバイクを押す。久しぶりの、自転車とは違うバイクの重さだ。

右手レバーが前輪ブレーキ、右足ペダルが後輪ブレーキ。左足のシフトペダル、前を踏んだらシフトアップ、後ろを踏んだらシフトダウン。YouTubeで予習したことを確認する。

 

ギアをニュートラルから一速に入れ、ゆっくりとスロットルを回す。

グーーン。リトルカブが走り出す。

その昔、初めて友達の原付に乗った時には、想像以上の「エンジンの力強さ」というものに驚いたものだ。

今回は想定内、って感じだ。

 

スロットルを戻し、二速へ。ガチャコン。ブーーン。

イメトレ通り。三速へ。ガチャコン。ブーーーン。

お兄さん見ていてくれたかな?ブレーキをかけて止まり、道路横の空き地を使ってUターンしようと思いギアを一速にする。

でも乗ったままでは難しそうだったので、安全のために降りてバイクを押すことにした。

ウンウンウンウン・・・!

あれ?カブが言うことをきかない。

空き地に停めてある車に向かって行く?

 

思っていたのと違う出来事が起きた時、脳が停止したような感じになる。ニ、三拍遅れてから慌てる気持ちになる。

「あ、いけない、車に、ぶつかる、いけない!」

 

何とか進路を車から外そうとカブを押す。

「ギアが入ったまんまでスロットルを握って、バイクを押しているせいだ」頭がちょいとパニックになっていたが何とかそれを思いつき、必死で右手をハンドルから引き離す。カブがどんどん先行していくのでスロットルを戻すことができなかったのだ。

空き地の土の地面にゆっくりと横倒しに寝かせる形で、何とかカブの暴走を止めた。

 

車にぶつけなくてよかった…。ホッとしてカブを起こす。

エンジンは停止していた。とりあえず見た感じは壊れてはなさそうだ。

バイク屋のお兄さんが慌てて飛んでくるかと思ったが、来る気配はない。

もう一度エンジンをかけてバイク屋さんの裏まで戻る。

誰もいない。

 

僕が走り出したのを見届けてすぐに帰ってしまったのか?

まさか僕がバイクを車にぶつけそうになったのを見て、慌てて奥に引っ込んだのか? そんなことはあるまい。

まあおっさん相手ならこんなもんなんだろう。今の出来事は自分の中にとどめて終了、とすることにした。

 

僕は「バイクを押す時はニュートラル。というかエンジンを切る!」を学んだ。そして不安な気持ちを抱えたまま、ゆっくりと、今度は家へ向かって走り始めた。

 

操作方法は分かるし、まあ乗れる。ただ何ぶん初めての経験だ。シフトチェンジやブレーキの操作にちょっとずつ慣れながら道路の左端をぼちぼち走る。

ウインカーの操作が意外に難しい。

右手側にスイッチがあり、上にずらすと右ウインカー、下にずらすと左ウインカーが点滅する。右手はブレーキ操作もスロットルの開け閉めもある。特に交差点を曲がった後はシフトチェンジに伴いスロットルの開け閉めで右手が忙しい。親指を伸ばしてウインカーを戻すタイミングがなかなかない。

結果、いつまでもウインカーを出しっぱなしになったり、焦って左ウインカー➡右ウインカーになったりする。おまけにシフトが一速から二速にうまく入らなかったりすると、曲がった後にかなりモタモタしてしまう。

 

まあでも人生初めての二段階右折も二回やり、途中ホームセンターにも寄り、少しずつ運転に慣れながら何とか無事に家まで帰り着くことができた。

学生の頃は何も考えずに、友達に借りた原付をかっ飛ばしていたのにな、と思った。自動車の運転の経験を積むことで、原付の怖さを感じるようになった、ということだろうか。

 

そして次は娘に乗り方を教えてやらなければならない。      (つづく)