吉田修一の旅のエッセイを読んでいるとスイスの首都ベルンを訪れた話があった。
「ベルン」の名を聞くと中学の時の地理の授業を思い出す。
地理の先生は毎回授業のはじめに生徒の誰かのノートを借りて、前回の授業分の中から即興クイズっぽく5問の確認テストを出すのだった。
誰のノートを借りるかわからないのでみんなちゃんとノート取れよ、っていうのと、みんな一応ノートを見直せよ、という上手いやり方だったと思う。
中学の頃(高校でも)、普段、自分のノート見直すなんてことなかったもんね。
僕らは案外素直にそのクイズみたいなテストを楽しんでいた。
僕のノートから問題が出されたその日、「スイスの首都は?」があったのだ。
これは先生が黒板に板書したものではなく、「スイスの首都はジュネーブやチューリッヒじゃなくベルンなんですよ」と話していたのを「へー」と思って、なんとなく「スイスの首都→ベルン」と大きくメモってぐるぐると鉛筆で囲っていたやつだった。
だから僕はココロの中で「ベルン出るんちゃう?」「ベルン出たらみんな分からんのちゃう?」密かに思っていた。
嫌らしい中学生である。
そしてベルンは出た。
「えー、そんなん書いてなかったー」「そういえば確かに言ってたー」「あじろ君そんなのまでちゃんと書いてるの?スゲー」「なんでそんなの書いてんだよー(クソが!)」
賞賛と批判の声で、授業の始まりにちょっとした盛り上がりができた。うんうん。
そんなどーでもいい出来ごとが記憶の中からよみがえり、「スイスの首都はベルン」が今でも記憶に刻まれていることが確認できた。
「スイスの首都、ジュネーブじゃなくてベルン」みたいな間違いやすいの、いくつかあったよなー、と思った。
ブラジルの首都、リオデジャネイロじゃなくてブラジリア。
オーストラリアの首都、シドニーじゃなくて…
あれ? 何だっけ?
知ってるんだよ。何だっけ?
メルボルン?いや、違うな。
たまたま横にいた妻に聞いてみる。
「オーストラリアの首都って何だっけ?」
「ブリスベン!」即答だった。
いや、違う。思い出せないけどブリスベンは違う。
「シドニー!」
いや、シドニーは違うんだよ…。
僕はこういうクイズ?雑学?、「自分の生活には何の役にも立たない知識」の記憶にはそれなりに自信を持っていたのだ。
思い出せない。
年齢とともに必要のない知識が思い出せなくなるのは「老化」ではなく「脳の効率化」だ。この前読んだ脳科学の本に書いてあったぞ!
記憶力は下がるが、効率化された脳は判断力が上がり迷いがなくなるんだ!
出てこない名前は検索することも無理に思い出すことも必要ないらしい!
スリジャヤワルダナプラコッテ!スリランカの首都!
これも中学のとき憶えたやつだ。ちゃんと憶えてるじゃないか、ガハハ……。