佐藤多佳子さん。「一瞬の風になれ」や「しゃべれどもしゃべれども」の著者の方だなーと思いながら、なんとなく手に取った本、「明るい夜に出かけて」を読み終わった。
逃げるように大学を休学してコンビニでバイトしながら一人暮らしを始めた主人公。そこでの出会いの物語なのだけど、この物語のキーになるのが「深夜ラジオ」だ。
著者の佐藤さんご自身も深夜ラジオのリスナーだそうで、ニッポン放送「オールナイトニッポン」やTBSラジオ「JUNK」といった実在の番組が出てくる。
ラジオを愛する者達の深夜の高揚感。初めて聴いた人には何を言っているのかすら分らない内輪のノリ。パーソナリティとの距離の近さ。送ったネタを採用される喜び。リスナー同士の連帯感。ラジオ番組が生活の中の一番の愉しみになってること。他所ではリスナーであることを隠してる感じ。
そういう描写にかなり力が入っている。
ああ、僕じゃん。中高生の頃の僕じゃん。
深夜1時から3時の番組。
持っていたラジカセにタイマー機能などはなかったので、1時の時報とともに120分テープで録音をスタートさせる。60分でオートリバースされるテープは、二時間の番組を録音して止まる。ボリュームを絞ったラジオは朝までついたままだ。
朝起きるとすぐに、ちゃんと録れているかどうかの確認をする。冒頭とエンディングだけ確認して学校の準備をする。1時に寝た10代は眠い。
1時に録音をセットしたら後で聴くことを楽しみにして寝ればいいのだけれど、ちょっとだけ聴きたくなる。
オープニングトークだけ、最初の1コーナーだけ・・・。
面白い。夜中に声を上げて笑ってしまう。
自然に寝落ちしてくれればいいのだけど、面白すぎる。深夜のテンション、生放送ならではの次の展開へのワクワク感。
結局最後まで聴いてしまう。3時に寝た10代は一日中眠い。
授業中にイスから転げ落ちそうになるくらい激しい舟をこぐ。
しだいに聴く曜日も増えてくる。だいたい芸人さんかミュージシャンの番組で、TBS系列とニッポン放送系列で曜日ごとに好きなパーソナリティの方を選んでいると、ほぼ毎日夜中のラジオを聴くことになる。
ちゃんと録音して聴くもの、寝落ち前提で聴けるところまで聴くもの。分けてはいるのだが聴いているとどれも馴染んできてどれも最後まで聴きたくなる。
そのうち3時から5時の「2部」にまで手を出すようになったので、僕の学生生活は当たり前のように破綻していくことになった。
そんなに夢中だったラジオも、大学生になり(はじめ学生寮で二人部屋だったせいもあるけど)夜中に外で遊ぶようになったり、彼女と同棲するようになったりで聴かなくなると、一気に熱が冷めてしまった。
今でもラジオは普通の人からすると聴いている方だと思うが、あの時の熱量で、本当に「ラジオだけが毎日の楽しみ」のような日々は、今ふり返ると一体何だったのか?
現実からの逃避?
真夜中の布団の中で、誰とも共有しないひとりぼっちの楽しい時間。
なんだかマボロシのような感じすらする。