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サッカーくじtotoを当てて人生を変える話

蛍にまつわるエトセトラ

蛍を見に行きたい。

 

 

歩いて行けるような近所にはいなさそうだ。

ネットで調べると、県内の、観光や町おこしでホタルを売りにしているところがいくつか出てくる。この時期の週末は「ホタル祭」を開催している所もある。

そういう所もいくつか行ってみた。

 

自治体や「ホタルを守る会」の方なんかが環境の保全に懸命に取り組んでおられるようで、たくさんの蛍が乱舞していて美しかった。

その分、見に来る人もいっぱいで、川沿いの道を行列になってぞろぞろ歩いたこともある。

 

チラホラ飛んでるくらいでいいので、あまり人のいないのんびり歩けるようなところがないかな?と思うのだけど、そういうのはネットでは見つけられなさそうだ。

 

 

ー ー ー

 

 

僕が妻と初めて出会ったとき、周りにいた人たちには「僕が恋に落ちた音」がはっきりと聴こえたそうだ。

・・・というのは嘘だけど、それまで特定の女性に興味を示すことのなかった僕が、当時の妻にだけは何とか話しかける機会を見つけ、近づこうとしていたのは、周りの目から見ても明らかだっただろう。

 

当時の彼女は可愛かった。可愛くて、明るくて、話すととてもいい子だった。

しばらくして、もうどうにも気持ちを抑えることができなくなり、付き合って欲しいと言おうと思って電話で呼び出した誘いが、

「一緒に蛍を見に行こう。」だったのだ。

 

僕の住んでた寮と、彼女の住んでたアパートのちょうど中間あたりに、幅1mちょっとくらいのきれいな水路があった。

そこに架かる小さな橋で待ち合わせをした。

 

その橋の上にも蛍が飛んでいることもあるし、そこから少し歩いた、もう少し大きな川にもたくさんの蛍が飛んでいる。

 

その前の年に、先輩から「彼女ができたら連れて来るといいよ。」と教えてもらった素敵スポットだ。

 

 

橋の上に彼女が来たのは、ちょうど日が沈み、すべてが群青色に変わる頃だった。

蛍はいい感じに2~3匹ふわふわ飛んでいた。

 

橋の横で蛍を眺めしばらくお喋りをしていたが、僕はもう今言ってしまおうと思った。

僕が彼女に気があることは多分もう伝わっていたと思うし、いつも素直に呼び出しにも応じてくれていたし、ドキドキしながらも、しっかりと気持ちを伝えた。

 

返事はすぐには返って来なかった。

 

「まあ、ちょっと考えてみてよ。」ということで、その日はブラブラとその辺りを歩き回りながら蛍を眺めたり、いろいろな話をしたりした。

 

そこから頻繁に二人で夜の散歩をするようになった。

蛍はたくさん飛んでいる日もあれば、少ない日もあり、また時間によっても光っていたり見えなかったりする。

そんなことも分かってくるくらい、何度もその辺を歩いていた。

 

蛍の時期が終わっても、まだ僕らはブラブラと散歩を続けた。

川沿いの道や彼女のアパートの周りの住宅街や公園なんかをひたすら歩き、お互いのことを話した。

ずっとそんなことばかりやっていたのは、まだちゃんと付き合ってはいなかったためか、お互いお金もあまりなかったためか、あるいは単にその時間が楽しくてたまらなかったためだろうか。

 

僕は毎日でも会いたかったが、あまり毎日では迷惑だろうとも思い、遠慮もしながらも機会をみては彼女を誘った。

ずいぶんと仲良くなったと思ったので、付き合ってくださいの返事を訊いてみたところ、彼女は困っていた。

 

どうやら他の人からも告白されているらしい。それは僕の仲間内の一人であった。

その彼の地元の、有名なお祭りに誘われて行ったときに告白をされ、最近ではだんだん悲壮感を漂わせた泣き落としになってきていると言う。

そんな人に断るのが申し訳ないし、二人から迫られるその状況がどんどん辛くなってきているということだった。

 

僕は「冗談じゃねえよ、あの野郎!」とは思ったが、彼女にも確かに申し訳ないとも思った。そんなに困らせるつもりではなかったのに。

でもこちらとしても引き下がるわけにもいかないので、「あなたの気持ちはどうなの?」とか何とか訊ねたとは思う。

 

最終的にはあちらをきちんと断ってくれるという話になった。

 

思い出してみれば、あの頃の妻はなかなかにモテていて、その前後も僕が把握しているだけでも3~4人から告白されていた。

その都度断っていただいたり、時には僕が相手の男に話がしたいと呼び出されたりした事もあった。

彼女を失うことはとても不安だった。

 

 

ー ー ー

 

 

確か二人目の子どもが赤ちゃんだった頃くらいに、いくつも県を越えて、蛍の季節に家族でその当時の川へ行ったみたことがある。

二人きりで夜ごと歩き回った懐かしい川沿いの道へ行って、僕らは驚いた。

 

川沿いの道にズラーッと自動車が並んでいる。そして大勢の人が蛍を見るために行列していた。

何かのメディアで取り上げられたのだろうか?僕らが住んでいた頃から10年も経っていないのに。

あまりの状況の変化に諸行無常を感じた。

 

 

でも、僕らが待ち合わせをしたあの小さな橋のところへ行ってみると、そこには誰もいなかった。

やっぱり2~3匹の蛍がふわふわと飛んでおり、ベビーカーの娘の腕に留まった。

ゆっくりと明滅する光が、娘の顔を小さく照らした。