引っ越した先は、きれいに区画された分譲住宅地だった。
近所の小学生たちはだいたいみんな生まれた時からそこへ住んでいた。もう空いている区画などはなかった。
広い住宅地はそこだけで一つの町内を作っていて、町内は2つの班に分かれていた。
僕は1班で、学校はその班で男女別に集団登校することに決まっていた。
1班で2年生は僕一人だけだった。
新1年生が4人いて、あとは4組の兄弟たちだった。
その時はあまり意識していなかったけれど、振り返ってみると、引越し先の新生活で一番馴染むのに苦労していたのが、この登校班だったような気がする。
男だけの兄弟の家ばかりで、殺伐とした少し荒い雰囲気があった。
2班の方は僕と同学年が4人いたし、一人っ子や女兄弟の子が多かったので近所の男子たちでよく遊ぶ雰囲気があった。
のちに僕も2班の子たちと遊ぶことが増え、家に近い1班の人たちとはそこまでは親しくなれないままだった。
町内を出ると、あとは学校までずっと田んぼの中の道を歩いて行く。
それまで街中に住んでいた僕は、田んぼを見るのも初めてだった。
川を渡り、田んぼの水路に沿って歩き、また川を渡る。ここではみんな川の中を覗き、魚を探しながら学校へ行くみたいだった。
田んぼに囲まれて学校は建っていた。
前の学校よりも児童数はかなり多いそうだ。
1年生から2年生は、そのまま同じクラスで持ち上がりだったらしい。担任の先生も同じだということだ。
そこへ新しい転校生として僕が紹介された。初めての転校生にみんな興味津々のようだった。
クラスのみんなの前で自己紹介をする。
「〇〇小学校から来ました。あじろゆうです。」
その瞬間、クラスが割れんばかりの大爆笑に包まれた。
「???」
なんだ? 何がそんなにウケてるのかまったく意味がわからなかった。
みんなが大笑いしながら「一文字違い・・・」「一文字違い!」「結婚!」「結婚すれば」と口々に言っている。
困惑して先生の方を見ると、先生も「ああホント。一文字違いだねえ。」と言っている。
どうやらクラスに「あじろゆうこ」さんがいるらしい。
「へええぇ・・・」僕もびっくりした。そんなことってあるんだな。
そりゃ確かに面白いだろうね。どういうリアクションをすればいいのか分からなかったけど。
しかし一番迷惑したのは、あじろゆうこさんだろう。
大人しそうな子で、困っているというか、ちょっと泣きそうな感じで固まっていた。
転校初日の教室で憶えているのはそのことくらいだ。
あと他に憶えているのは、初めての帰り道のことかな。