午前中の仕事をしながら、すでに冷やし中華の気分だった。
お昼ごはんは、いつもだいたい前の日の夕食の残りだ。
残りというか、娘が学校に持っていくお弁当と、夫婦二人のお昼ごはんの分を含めた量を、予め計算に入れて作ってくれているわけだ。
もちろんお弁当には前日の残りだけではなく他のものも入れるし、我々の昼食も足りなければ惣菜を足すこともある。
朝ごはんにも前の日の夕食メニューを食べる。
だいたいいつも夜、朝、昼と、三食同じメニューを食べることになるので、飽きることもあれば、何度食べても美味しいってときもある。朝は各自で好きなものを食べるので、別に必ずしも三食続けなければならないわけでもない。
お昼も、新たな食材を足したり味変をしたりと手早くアレンジすることもある。
僕ら夫婦は仕事の昼休みに一旦家に帰りその昼食を食べ、妻は晩ごはんの用意をしてから仕事場へ戻る。なかなかに忙しないが、もうずっとそんな毎日を送っている。
今日は土曜日でお弁当はいらない。
昨日の晩ごはんメニューも、朝に食べきった。
「冷やし中華だな。」 久しぶりに食べに行こう。
我が家は外食をしない方だと思う。
家族5人分の食費、倹約のため、夫婦共通の健康志向、僕の広場恐怖症、妻の料理が美味しい、コロナ。いろいろと理由はあったと思うが、年々外食をすることが少なくなった。
「久しぶり」なのは「冷やし中華」だけじゃなく、外食自体が久しぶりということだ。
近くのラーメン屋さんに娘と三人で向かう。
ここのラーメンはオールドスタイルの「ザ・中華そば」といった感じで、シンプルに美味しい。たぶん若いときにはその美味しさが分かりづらい、上質の普通の美味しさだ。
昔はラーメンが大好きで、学生時代や一人暮らしの社会人の頃は、必ず週に数回は食べていた。しかし、だんだんラーメンを食べると胃腸に堪えるようになってきて、今ではほとんど食べることがない。
ただ、このお店のラーメンは僕の弱い胃腸にもわりと優しい。それはすっかり油ものが苦手になった妻にも同じことが言える。食べても調子が悪くならない、ありがたいお店だ。
ランチタイムには少し遅かったが、店内はまだ人が多かった。多いと言っても高齢の夫婦でやっておられる小さなお店だ。行列ができるラーメン屋みたいなことではない。
「冷やし中華 はじめました」ちゃんと張り紙があるのを確認する。
奥の席への通路を通りながらそれとなく見たが、誰も冷やし中華は食べていなかった。みんな温かい中華そばばかりだ。
このお店は冷やし中華も美味いんだぜ、みんな知らないのかな?
ただまあ今日は朝から雨で、昨日までほど暑くはない。店内はかなり冷房も効いている。
うちの家族はふだん冷房をかけないので寒がりだ。うちの家族だけ、やけに腕をさすっている。
僕も一瞬温かい中華そばに心が動いたが、今日は冷やし中華を食べるためにこの店に来たのだ。娘にも冷やし中華を勧めたら、しばらく迷っていたが、「わかめそば」を選んだ。理由は「わかめが好きだから。」だってさ。知らなかったな。
この高3の娘が生まれて初めて一緒に来た飲食店が、たしかこのお店だったと思う。
まだ寝ているだけの赤ちゃんの頃。上の兄、姉が保育園児だったと思う。
人から教えてもらって初めてこのラーメン屋さんに来た。座敷席で赤ちゃんを寝かせながら4人で中華そばを食べた。
この娘は生まれたときから髪の毛がフサフサで、取りあげてくれたお医者さんもその毛量に驚いていたくらいだった。出産に立ち会っていた僕は「ドン・キング」を思い出していた。
僕ら家族が食べ終わって帰る時、ラーメン屋のマスターが、「いやー、髪の毛フサフサの赤ちゃんだなぁ。羨ましいわ。」と自分の頭をさすりながら冗談を言っていたことを憶えている。
この娘も、来春には家を離れることになるだろう。
夫婦二人だけになったら、また外食することも増えるのだろうか?
それともやっぱり益々行かなくなるのだろうか。