totoを当てる日

サッカーくじtotoを当てて人生を変える話

うるさくて眠れないあなたへ

先週の土曜日の仕事中に、他県で暮らす息子の部屋を管理する不動産会社から電話がかかってきた。

半年くらい前から何度も、上の階の女性から息子に対して夜間の騒音の苦情が来ているという。

何回か本人に言っているのだけれど、またその日も苦情があったということだった。

その内容が、「深夜2時半くらいにドアを思い切りバーンと閉めるような音が何度もして眠れない。わたし一時間半しか眠れなかったんですよ。」というものだったそうだ。あまりに音が激しいので「怖くなって警察を呼んだ」ということだった。

それで今回は本人ではなく、保護者である僕のところに連絡をしてきたということらしい。

 

息子に確認しようとLINEや電話をするも、土日はなかなか連絡がつかなかった。

結局電話で話したのは日曜の夜遅くになってからだった。そしてその金曜深夜の騒音について訊いてみたところ、あまり思い当たるところがないようだった。

 

金曜日の深夜2時半は普通に寝ていた。そんなに大きな音を立てることもないだろうし、警察が来たことも知らない。音がする可能性があるとしたら寝返りの音くらいかなぁ、と言うのだ。

確かに僕もこの話を聞いたときから、「ドアをバタン!と閉める息子」のイメージができず違和感を感じていたのだった。注意されても改善しない、ということについても。

僕の知る限りの息子ではあり得ないことのように思える。そういう姿を見たことがないのだ。

それだけに、大学を辞めてどうにかこうにか就職をした流れのこの半年、息子が心を病んでしまって昼夜逆転した生活を送り、夜中にむしゃくしゃして何かドタバタやっているんじゃないか?人が変わったようになってしまったんじゃないか?という不安はあった。

 

 

子ども三人が順番に進学するのでできれば県内の大学に行って欲しいという親の願いは聞き入れられず、頼みの綱の奨学金と授業料の減免は成績不振で打ち切られ、それでも四年間は授業料と月々の仕送りを必死で続けた挙げ句の中退。

ボランティアでの地域町おこしや学生起業みたいなものに夢中になって、理系の研究分野の大学の勉強にはついていけなかったようだ。ただ、いろんなものに手を出す割にこれというやりたいことがある訳でもなく、気楽な学生の立場でやるには楽しいんだろうけど、イメージ先行で中身の伴わないその活動に、僕は正直嫌悪感を感じていた。

腹が立つのもあり、でももう親が口を出すことでもない、自分の考えと責任でやればいいという気持ちもあり、僕は息子とは敢えてしばらく連絡を取らないようにしていた。

息子の方も気まずさもあり、相変わらずあれこれ手を出して忙しいのもありのようで、連絡をしてくることはない。

 

今回のことで久しぶりに電話をしたが、元々の穏やかで人の和を大切にする人間性は変わってはいないようだった。生活も12時とか遅く帰ることもあるようだが、ちゃんと朝起きて仕事に行っているようだ。そういうところで嘘をついているようにも思えなかった。

今まで受けた苦情は、エアコンの室外機の音がうるさい(我が家は変人一家なので、息子も、別の一人暮らしの娘も今の時期にもエアコンを使わない)、夜間の洗濯機の音がうるさい(夜に洗濯機を回したこともあるが、日常的ではない。言われてからは使っていない)、ドアの音がうるさい(玄関ドアは言われてからはかなり気をつけている。特に夜。他にはトイレのドアしかない。部屋と部屋のあいだは引き戸で常に開けっ放し)、といった感じで苦情の内容と一致せず、なんとなく僕は釈然としない。

夜中に警察を呼ぶほどの騒がしさ・・・  寝ていたのに?

 

 

月曜日に不動産会社に連絡をした。

苦情のその時間は息子は普通に寝ていたようだ。そんなにうるさいのなら他の部屋の住人は何と言っているのか?警察の記録には何と書かれているのか?そもそも本当に警察まで呼んだのか?そして本当にそんな音がしているのか?極端な話、幻聴とかの可能性も無くはない。仮に幻覚や幻聴が起こる病気だったりしたら、それだけ「あいつのせいだ!」と思われている息子が逆に危害を加えられたりするのも怖い。もちろん他の部屋の音が下からの音に聞こえている可能性もある。「気をつけてくださいね。」「はいはい。」で終わらせずに、僕としてはそういうことを確認したい気持ちだ。

 

不動産会社としては保護者(もう社会人なんだけどね)から注意してもらって、気をつけます、すみませんでしたと言って欲しかったんだと思うんだけど、「幻聴」とか言い出したから、ちょっとやべえ親父だと思われたかもしれない。

でも一応すぐに警察と下の階の住人の方には確認して、もう一度電話をくれた。

 

警察が来ていたのは間違いないようだ。ただ、どういう対応をしたかまでは判らなかったということだ。おそらくその時点でうるさい物音がしていなければ、夜中に息子の部屋を訪問することはしていないだろうと思う。

下の階の人は、生活音が聞こえないわけではないけれど気になるほどではないと言っているそうだ。

息子の部屋からの音でないにしろ、夜中に警察を呼ぶほどの音が続くのならば、他の部屋の住人や息子自身にも聴こえていても不思議はない。各階2部屋ずつ、三階建てのコーポのことだ。

お互いちょっと釈然としないまま電話を切った。

 

 

その直後、不意に僕はある症状のことを思いついた。

それは「頭内爆発音症候群」だ。

 

眠りに落ちるときや、半睡眠・半覚醒といったタイミングで、突然、破裂音や爆発音が聴こえるという症状である。

検索から信用度の高そうないくつかのサイトを開いて確認してみたら、聴こえる音の種類は「バーン」「ボン」という爆発音や、「パンパン」「パーン」みたいな破裂音、「カーン」とか「キーン」といった高い金属音、チャイムの音、ドアを「バタン」と閉める音、壁を「ドンドン」と叩く音、車のエンジン音、といくつかの報告例がある。

現実の音ではないので、耳鳴りの一種とも言えるし、幻聴とも言える。

ただ精神疾患ではなく、誰にでも起こりうる生理現象の一つで、はっきりとした原因は不明。ストレスや睡眠障害との関連性は指摘されているらしい。

以前出会った人が、最近寝る時に時々頭の中で「パーン」という銃声が聴こえると言ったので調べたことがあり僕は知っていたのだけど、経験したことのある人は意外に多いらしい。

特に悪いものではなく、自然に治まることがほとんどだという。

寝ようとしたら急に大きな音がして目が覚めてしまうので、びっくりする人や不安になる人もいるし、症状がしばらく続いたり、何回も聴こえることもあるという。

 

僕はこれの可能性は高いような気がした。

もう一度電話して「その方は頭内爆発音症候群かもしれませんよ。」と教えてあげたい衝動に駆られたが、一日に三回目の電話でそれを言うのが少し躊躇われた。あまりやべえ親父だと思われすぎると、かえって息子に不利になるかもしれない。

 

 

こういうのもあるよ、と教えてあげたい。どんなタイミングでどんな音が聴こえるのか確かめたい。事件を解決したい(!)

 

もし何か次の展開があったらその時言おう。そう思ってその日は衝動を抑えた。